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ミズノ:圧倒的内製パワーで商品開発部門がサービス開発を主導

Client Case Studies
ミズノ株式会社

ミズノ:圧倒的内製パワーで商品開発部門がサービス開発を主導

総合スポーツ用品メーカーの老舗として知られるミズノ。同社のグローバルイクイップメントプロダクト部は、ユーザー体験を重視した商品やサービスを市場展開するうえで外注開発の限界を感じ、内製化へと大きく舵を切った。元々エンジニアではなかったメンバーだが、持ち前の好奇心で短期のうちにAI活用を含む最新の開発手法を身に付け、圧倒的な内製パワーを手に入れるに至った。その本質的な価値とは──。(文中敬称略)

ミズノ株式会社 グローバルイクイップメントプロダクト部 先行開発課 課長の辻圭氏(右から2人め)、同課 主任技師の山田雄貴氏(左から2人め)、同課 技師の稲毛正也氏(右から3人め)、同部 デザイン課の林口未奈氏(左から3人め)。
内製化を支援したULSコンサルティング株式会社 シニアマネージャーの小出泰喜(一番右)、同マネージャーの菅慎司(一番左)
※登場人物の所属組織名および役職は取材当時(2026年5月時点)のものです。

──お二人が所属するグローバルイクイップメントプロダクト部とは、どのような部署ですか?

稲毛:野球やゴルフ、ラケットスポーツなどで使う用具の企画・開発を担っています。バットやクラブなど選手が直接手に持ってプレーするものは分かりやすい例ですが、中には人工芝なんてものもあって扱い品目は多岐にわたります。

市場環境を見ると、モノ単体としての良さだけで勝負するのが難しくなってきたのが昨今のトレンド。消費者は性能のみならず、それを使えばどんな豊かな体験が得られるかを重視するようになりました。プロダクトに多様なサービスを組み合わせ、相乗的な価値を提供していくことがカギを握ります。グローバルイクイップメントプロダクト部において、その役割を担っているのが私たち先行開発課です。社内の技術資産やデータを俯瞰的に見渡し、将来の勝ち筋となりそうなチャンスを探索しています。

機能一辺倒では市場に受け入れられない

──興味深い組織ですね。1人ひとりに目を向けると、どんなメンバーが揃っているのでしょう。

稲毛:デジタル活用に力を注ぐ人がいれば、材料をとことん追求する人もいて、まさに十人十色です。共通点を見出すとしたら、新しいモノ好き、テクノロジー好き、リスクを厭わずチャレンジしたいタイプが集まっていると言えるでしょうか。王道というべきスポーツ畑を歩んできたメンバーばかりではないのも特徴で、私自身も大学では電気系を専攻していました。これは先行開発課だけでなく、デザイン課も同じですよね?

林口:はい。私もスポーツ一筋ではなく、美大出身のデザイナーです。こうした多様性があるからこそ、ミズノという総合スポーツ用品メーカーの中にあっても発想が固定化されず、新しいことに積極的に挑戦しやすいチームになっているのだと思います。

──目下、サービス開発の内製化がテーマと伺いました。それを考えるきっかけとなったのが、「MA-Q」だったとか。

稲毛:はい。MA-Qは野球ボールの中にセンサーや通信機能を入れて、球速や回転数、変化量などを可視化するIoTプロダクトです。話題になりつつも、思ったほどユーザーが増えないんですよね...。反省点の一つは、我々が「機能」を重視しすぎていたこと。いかに多様なデータを取得するかに意識が向いていたのです。しかし実際の現場での使われ方を見てみると、機能以外の面で改善点が多々あることに気付きました。

──具体例を挙げると?

稲毛:例えば計測にあたっては、捕球した後に一瞬だけ動作を止める必要がありました。データ転送の都合だったのですが、日頃の練習ではそんな挙動しませんよね? こうした「本来にはない動き」が一つ入るだけで、ストレスを感じさせてしまいます。そこを改善しない限り、いくら高機能でも現場では受け入れてもらえないことが、ユーザー調査を通じてよく分かりました。

林口:今の時代、ユーザー体験の良し悪しがとても大事なことを象徴してますよね。

──改善を進めるうえで、従来の外注開発にはどんな限界があったのでしょうか。

稲毛:一番大きな問題は、スピードと自由度です。仕様を固めてから外部ベンダーに発注するやり方は、社内調整に手がかかりますし、実際に形になるまでにも数カ月単位の時間が必要です。しかも、試作した後に『もっとこうしたい』と思っても、すぐには直せません。試行錯誤を重ねたいのに仕様を固めてから発注するやり方ではフットワークが重たいんです。ならば、自分たちでやるしかないよねと、内製化の想いが募ることになりました。

座学はほどほどに、手を動かしながら学ぶ日々

──そこでULSコンサルティングに協力を仰ぐことになったのですね。

稲毛:大手クラウドベンダーがユーザー企業の内製化支援の一環で開催しているイベントに参加したのがきっかけです。企画フェーズでは高評価を得たものの、実装フェーズはアプリ開発の進め方に関する知見が不足しており惨敗という展開(苦笑)。そうした中、私たちに合いそうなパートナーを何社か紹介していただいたところ、ULSコンサルティングとの運命的な出会いがありました。

菅:初めて対面した際、ミズノさんから提示された「こんなことがやりたい」という資料の中に、私が以前講演会で登壇した時に使ったアジャイル開発のスライドが使われていたのです。それがとても嬉しくて、印象的でした。

稲毛:お互い波長が合ったのでしょうね。ULSコンサルティングにお願いした伴走支援は、2024年6月より本格スタートしました。

──伴走支援は、どんな形で始まったのですか。

菅:まず「何を作るか」のディスカッションと、アジャイル開発/スクラム開発の基礎的な座学からスタートをきりました。スクラム体験型の1dayワークショップも実施しましたが、後はひたすら「作りながら学ぶ」の一択です。

稲毛:やはり自ら手を動かすことで得られることの方が、何倍も多いですから。座学はほどほどにしていただき、すぐに手を動かし始めました。

──最初にどんなものを作ったのでしょう。

稲毛:MA-QのデータをWebアプリで可視化する仕組みです。実際にできたときは本当に嬉しくて、すぐに上司に見せに走りました。球速や回転数などの計測データをグラフ表示したり、不要なデータを選んで削除したりといった単純なものですが、自分たちで考えた機能が実際に画面上で動いたのを目のあたりにして、皆が盛り上がりました。こういう小さな成功体験が、「自分たちでも作れる」という自信につながっていったと思います。

菅:いきなり「グラフを作りたい」と言われたときは、内心「初手でそれは難しいぞ...」と危惧したことを覚えています(笑)。計測データを一覧表示するだけならまだしも、グラフ化となれば使うべきライブラリも複雑ですから。でも、心配をよそに見事に作り上げたことには驚きました。

林口:デザイン面も頑張りました。私が最初はスポット的な手伝いとしてチームに加わったのですが、アプリの見た目だけでなく、UX(ユーザー体験)全体をどう設計するかにこだわりました。

小出:実際、林口さんが加わったからこそ、ユーザーがどんな流れでアプリを使うのか、どこで迷うのか、どう見せれば自然に使えるのかを、全員が意識するようになりました。ロジック開発とデザインが近い距離で回るようになったことで、単に機能を実装するだけでなく、UXを組み立てる視点がチームに加わったのは大きかったと思います。

AIエージェントを組み合わせた開発にも挑む

──開発プロセスにAIも取り入れたと伺いましたが、それはいつ頃からですか?

菅:GitHub Copilotを2025年4月に導入し、まず慣れてもらうことから始めました。

稲毛:当初は不明点をGoogleで調べる代わりにAIに相談するという感じでした。それが次第に「指示を与えて目的のコードを生成させる」という使い方に変わってきて、この数カ月で一気に加速した感じです。ちなみに、一番最初はAIの口調を調整する機能で大阪弁をしゃべらせるという遊びから始めていただきました。 AIだからといって身構える必要はなく、一気に身近な存在になったのを覚えています。今にして思えば、我ながら随分と成長しましたね。

菅:現在は複数のAIエージェントを組み合わせたチームで動かしています。オーケストレーターとなるAIエージェントが、リサーチャー、開発者、レビュアーといった20体以上のAIエージェントを束ねる構成です。

稲毛:おかげで今は「どう作るか」はAIに任せて、「何をどういう状態にしたいか」を言語化することが私たちの仕事となっています。

林口:デザイン面でもFigma Makeという生成AIを使っています。「こういう体験フローにしたい」「こんなユーザーが使うことを配慮して」というイメージを伝えてディレクションする、いわば新入社員を指導するような感覚で進めています。命令口調でひっきりなしに指示を出すので、周りのメンバーからは「かなりスパルタだね」と言われています(笑)

内製化したからこそ多くの気づきが生まれた

──そうしたAIエージェント部隊も活用しながら、どんな領域への適用を進めたのですか。

稲毛:ミズノ直営店で行っている「ゴルフフィッティングサービス」の予約システムの改善に取り組みました。既存システムはパソコンからの利用を前提としており、スマホの画面では文字が読みずらい状態でした。これでは多くのユーザーが離脱してしまいます。サービスの利用体験を起点に次のアクションにつなげたいにもかかわらず、その最初の導線がうまく機能していない。「これは自分たちのスキルでも改善できる」と思い立ち、すぐに着手しました。

菅:驚くべきは、そのスピード感です。直近に控えていたゴルフイベントに間に合わせたいと、「1カ月で完成させよう」という話になったのです。AIエージェントを使えば何とかなるかもという、無謀ともいえるチャレンジでしたが、思いのほかうまくいった形です。

小出:短期間で開発したとはいえ、新システムは決して見切り発車だったわけではありません。社内のセキュリティチェックをクリアし、問題なくリリースできました。皆様がAIエージェントをしっかり使いこなせていたからこそ、高品質なシステムを実現できました。

エージェントチームという今では当たり前になっているAI駆動開発の概念を取り入れたのも注目点です。当時はまだClaudeでもエージェントチームという概念が出てくる前でしたが、ULSコンサルティングで実験していた内容をいち早く導入しました。人間を超えるようなAIのコーディング能力を活用できたことも成功のポイントだったかもしれません。

稲毛:新システムを内製したことで、多くの気づきも生まれました。これまではサービスの予約率低迷を漠然とアプリのせいにしてしまう傾向がありました。新システムでは、どの段階でお客様が離脱してしまったのかなどを把握できるようにしており、これにより自分達で問題点を検証しアプローチや施策を打てるようになりました。

具体的には、ログデータを分析したところ特定のステップで離脱が多いことが分かり、その背景にある運用上の課題にも気づくことができました。今まで見えていなかった事実をもとに、新たな仮説を立てられるようになったのは大きな成果です。

そのほか、A/Bテストや行動分析の機能も新システムに組み込みました。従来の外部ベンダーへの発注では、システムのインプットとアウトプットだけを取り決めた仕様策定になりがちでした。「こんなこともできたら便利だよね」と、後から思い付いたアイデアも柔軟にシステムに反映できることが、内製化の最大のポイントだと思います。

ビジネス面へのコミットが次のステップ

──今後、内製化の取り組みはどういうフェーズに進んでいきますか。

稲毛:次に私たちに求められるのは、やはりビジネス面へのコミットです。AIを活用して試行錯誤しながらシステムを作れることは、ある程度見えてきました。ただ、それをどう事業成果に結びつけていくのかは、これからが本番です。社内を見渡して、どこにどんな課題があるのか発見し、それを解決するための小さく素早く仮説検証を回していく――。その積み重ねから、新たな価値を創出していきたいと考えています。

菅:ここまでの伴走支援を通じて分かったミズノ様の強さの理由は、大きく3点あります。1つめは担当者の裁量が大きく、迅速な意思決定が可能な文化。関係者の合意形成に時間をかけることなく、担当者の一存で物事を決められる機動力とも換言できるでしょうか。2つめは「新技術に対する貪欲さ」。例えば「GitHub CopilotやFigmaの新機能が出るらしい」と案内すると、「一刻も早く使ってみたい」と飛びついてきます。そして3つめが「飽くなき好奇心」で、前例に囚われることなく何でも受け入れていこうという雰囲気に満ちています。

今回のプロジェクトは、3つすべてが揃った「奇跡のチーム」だからこそ、凄まじい成果を挙げたとも言えるでしょう。そんなミズノ様のチャレンジを、ULSコンサルティングとしても引き続き一体となって支え続けていく考えです。

企業概要

企業名
ミズノ株式会社
事業内容
ミズノ株式会社は1906年創業以来、「より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する」を経営理念に、スポーツ品の製造および販売、スポーツ施設の運営、各種スクール事業を展開。近年は日常生活にもスポーツの価値を活用した商品やサービスの開発を積極的に進めている総合スポーツ用品メーカーです。

人物

稲毛 正也 氏

稲毛 正也 氏

ミズノ株式会社
グローバルイクイップメントプロダクト部 先行開発課
林口 未奈 氏

林口 未奈 氏

ミズノ株式会社
グローバルイクイップメントプロダクト部 デザイン課
小出 泰喜

小出 泰喜

ULSコンサルティング
テクノロジー本部テクノロジーコンサルティング部
シニアマネージャー
菅 慎司

菅 慎司

ULSコンサルティング
テクノロジー本部テクノロジーコンサルティング部
マネージャー