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日本テレビ:AIエージェントによる番組編成・制作の高度化を目指す

変革の萌芽
日本テレビホールディングス株式会社 <テクノロジー編>

日本テレビ:AIエージェントによる番組編成・制作の高度化を目指す

テレビ番組の制作や編成の業務に、データから導かれる知見を積極的に活かしていこう──。この想いを具現化するために日本テレビグループは今、AIエージェントを活用した新たな仕組み作りに取り組んでいる。その中身とはどんなものなのだろうか。プロジェクトを支援したULSコンサルティングと日本テレビのキーパーソンに詳細を聞いた。(文中敬称略)

──中期経営計画2025-2027における重点目標の一つとして「企画開発におけるAIの活用、テクノロジーの積極的導入」を掲げていますね。

岩長:視聴スタイルが次々に変わるなど、テレビ業界が大きな転換期に差し掛かっていることが背景にあります。「良い番組を良い枠で届ける」ことが私どもの基本であるにせよ、それを突き詰めると共に持続可能なものにしていくには、属人的な経験知に頼らず、組織に「データドリブンな意思決定の習慣」を根付かせることが不可欠です。ファクトに基づいて深く考え、"打率"を少しでも上げていく。そのための環境を整備する上で、最新テクノロジーの活用は避けて通れません。

瀧本:ファクト、つまり客観的事実を示す材料がデータです。ビデオリサーチ社から提供される視聴率データを筆頭に、番組の制作や編成に関わる社内外の様々なデータを社として収集しており、それをもっと現場の日頃の業務に役立ててほしいとの想いがあります。

仮説検証との親和性で生成AIに注目

──AIに注目した理由は?

瀧本:すでに日本テレビでは生成AIのGoogle GeminiやMicrosoft Copilotを全社員・スタッフが使えるようにしており、多くの社員がリサーチや業務補助などに自由に活用しています。ただし、あくまで個人レベルであり、組織的なプロセスの中に入り込んだ使い方ではありません。AIの適用領域がどんどん専門的になって、いわゆるAIエージェントと言われるような役割を果たすようになると、日々の現場のワークフローにも大きな変化が起こると期待しました。

──どのような体制で、どのような取り組みを進めているのでしょう。

瀧本:課題の抽出から要件定義としての取りまとめ、そして具体的なシステムへの落とし込みという一連のプロジェクトにおいて、ULSコンサルティング(以後、ULS)さんに協力いただきながら、今まさに取り組んでいるところです。社内的には「コンテンツテクノロジープロジェクト」、略してコンテクと呼んでいます。

最上:テックチームとしてシステム実装を担っているのが私と瀧口です。他にも弊社からはビジネスチームが参画しており、日テレさんと議論したりプロトタイピングしたりしつつ、要件定義としてきっちり取りまとめるところをサポートしています。

AIチャットとAIエージェントを組み合わせる

──システムはもう完成しつつあるのですか?

瀧口:いえ、まだまだです。第一段階として、コンテンツの評価支援を想定したアプリ、通称コンテクアプリの開発に取り組んでおり、その試作版が2025年上期にできあがったので現場のスタッフの方に実際に使ってもらいました。今は、フィードバックを元に改良を施したものをリリースしたばかり。要は、ごく一部のベータ版が出来上がったに過ぎません。

瀧本:短期間でのサイクルを反復し、使い手のフィードバックを取り入れながら、小さな機能単位で実装・改善していくアジャイル開発で進めているので、これからも同じような作業を繰り返しながら完成度を高めていくことになります。

──先ほどのベータ版を例に、どんな構造なのか、どんな使い方をするものなのか、もう少し詳しく教えてください。

最上:ざっくり表現すると、ユーザーがチャットで質問すると、それに関連するAIエージェントが幾つも連携して動いて、回答を返してくれる構造です。例えば番組制作スタッフの方が自分の番組について「過去○年間で30代女性視聴者に最も視聴率が高かったコーナーベスト10とそのコーナーの出演者を教えて」と質問すると、それらの情報をAIが整理して回答してくれます。さらに「10代の視聴率が振るわなかったコーナーについて、コーナーの内容と尺(放送の長さ)、出演者、その時の裏番組の情報を基に分析して」と質問すると、AIがそれぞれのデータを集めてきて内容を分析した上で示唆を出してくれます。編成や制作の方々が自局や他局の番組を振り返って分析を行い、今後の方針を検討する段階において、AIがいわば"壁打ち相手"になってくれるわけです。

瀧口:用途別のAIエージェントを組み合わせたマルチAIエージェント構成になっています。特定番組の視聴率に詳しいAIエージェントや、データを取ってくることに特化したAIエージェントなど、一つひとつは専門特化した役割を担います。どこをAIエージェントに任せて、どこをビジネスロジックにするかを悩みながら、ひとまず今の形に落ち着きました。

最上:要素技術でいえば、GoogleのVertex AI Agent EngineやBigQuery、Cloud SQL、Cloud Runなど一般的な商用技術を使いつつ、所々でエッジの効いたプレビュー版のサービスも当て込んでます。

瀧本:日テレの社内には、各部署からの要請に応じて詳細な分析を行ってレポートしてくれるデータ分析の専門部署があります。ただ、リソースは限られるため、全ての番組に毎日毎週対応することは難しく、また、個別の問い合わせについて調査分析を行って回答するまでには時間を要しますし、編成や制作の現場からすると一般的なビジネスタイムから外れた時間帯での相談や踏み込んだ分析を何度も依頼するのには遠慮も出てきます。その点において、AIエージェントを使った今回の仕組みは、何度でも疲弊することなく、朝早くから深夜までいつまでも分析の壁打ちに付き合ってくれますし、その場で回答を得て、さらに次の問いを立てられるのがいいですね。編成や制作が調べたいこと考えたいことをAIにぶつけて、アイデアを収れんさせたりインスピレーションを得たりすることに繋がってくれると期待しています。

体験設計を重視し「使われる仕組み」目指す

──いくらAIと言えども、全ての質問に網羅的にかつ的確に答えるのは難しい気がします。

最上:番組内のコーナーをどの順番で放送するのが良いか検討したい制作の方もいれば、数カ月先の特番編成をどうすればよいか悩んでいる編成の方がいるなど、立場によって関心事は様々です。全ての質問に回答できる仕組みをシステム的に考えるとなると我々テックチームは破綻していたかもしれません。実はその前段階として、そもそも現場はどんなことを知りたいかを、日テレさんと弊社のビジネス検討チームでしっかり整理しているのが肝です。

瀧本:ULSさんでビジネス検討をされているチームと一緒に各部門のマネジャーや担当者に徹底的にヒアリングを行っています。現場の声をそのまま受け入れるというよりも、本質的に知りたいのはこの内容だよねとか、ここまで踏み込むのはレアケースだよねといった具合に調整を加えます。また、現場からは挙がってこなかったけど、こんな質問もあり得るよねといった質問候補も我々でリストアップした上で質問をグルーピングしてレベル分けしました。私と岩長は共に現場上がりですので、その経験がとても役立ちましたね。

岩長:手前味噌ですが、ここでの体験設計をしっかりとやったことが奏功したと思います。具体的な人を思い浮かべて、どんなジャーニーが展開されるべきかを考え抜きました。小さくてもいいので"壁打ち"を通して心動く出来事があれば、新しい仕組みの定着、ひいては業務改革へとつながっていきますから。

瀧口:内部的には、ビジネスチームで整理した現場の想定質問に対してAIエージェントが回答するためのインプットとなるレポートデータと、AIエージェント自体の両方を開発してきました。実際のAIエージェントの動きは、質問を解釈し、大量のデータの中から回答するために必要なレポートを特定・取得して、定量的なデータに基づいて要約・回答します。

常に最適解を模索し続ける

──全体のアーキテクチャはすんなり決まりましたか?

最上:どういう形が最適なのか、今なお走りながら考えているというのが正直なところです。技術スタックの一つひとつを深く理解し、どうすれば要求を具現化できるかを探ってきました。分からないことだらけだった最初の頃は特に苦労しましたね。自分なりに一生懸命考えたアイデアを提示した際、「そのアーキテクチャはちょっと違うような気がします」と却下されたのが日テレさんとの最初のやり取りだったと記憶しています。これは一筋縄ではいかないなぁと(苦笑)。

瀧口:日テレさんは国内外のテック企業やスタートアップとのお付き合いもあって、一般的なクライアントさんに比べて、テクノロジーやAIの動向に明るい方がいることに驚きました。しかも常に最前線をウォッチしていて、最新のプレビュー版も積極的に取り入れる姿勢でしたので、我々のアーキテクチャの見直しも頻繁に行いました。いつもホワイトボーディングしながら実装のアイデアを出し合っていました。

最上:プレビュー版ともなると、世の中にまだ情報が少ないのが悩みどころです。ネット上を探しても、「新しい機能をとりあえず使ってみた」という個人ベースのテックブログが多数派で、そもそもエンタープライズ用途に耐えうるのか判断がつきません。そんな時にはGoogleのスペシャリストに協力を仰ぐこともしばしば。結果として人脈も技術知識も広がり、我々は鍛えられることになります。大変なこともありながら、この刺激に満ちたプロジェクトを続けたいと心から思える瞬間です。

ビジネスとテクノロジーへの深い理解

──とはいえ、ULSさんとしては一息つく間もありませんね。

瀧本:我々サイドがGoogleさんから仕入れたばかりの情報を持ち込んだり、スタートアップの人を呼び込んだりするので、プロジェクトが凪を迎えることはなかなかありません(笑)。そんな中にあっても、ULSさんのキャッチアップ力は正直すごいなぁと感心しています。これまで専門外であったはずの領域も気が付けば誰よりも詳しくなっているんです。見えないところでは歯を食いしばっているかもしれませんが、我々には涼し気な表情を見せるので、ついこちらはまたアクセルを踏み込んでしまいます。

岩長:AI系の技術知識だけでなく、ビジネスデータに関してもものすごく熱心に勉強してくれていると感じています。視聴率を一つとっても生データはとても複雑ですし、計算上の制約条件も多々あるのですが、いつの間にか深く理解していて驚きました。

最上:そこにデータがあれば分析できるという短絡的な話では済みません。データ項目の一つひとつは何を意味するものなのか、どのような形式で保管されているのか、ソースごとにどのような頻度で更新されるのか...。"素材"としてのデータのあれこれが正しく頭に入っていなければ、目的通りの"料理"はできないのです。そこを強く意識して勉強させていただいたので、番組ごとのIDと各種のデータを連携させるといった場面でも迷いなく方針を打ち出せるようになりました。

──ビジネスとテクノロジーへの深い理解は、開発時の軌道修正などにも寄与しそうです。

岩長:はい。アジャイル開発で進めている当プロジェクトにおいては、成果物として実装すべきプロダクトの優先順位を見直すことが多くあります。現場サイドから「こんなことできる?」と話が持ち込まれた時などは典型例ですね。前線の困りごとをうまく解決することは当プロジェクトにとっては追い風となります。仲間が増えて業務改革の大きなドライバーになることが期待できますので、方向性が大きくずれていない限りは、できるだけ取り込んでいきたいのです。

瀧口:何をスコープアウトさせて何をスコープインするかをビジネスチームが話し合い、その結果が我々に共有されます。テックチームとしては期限内にどうプロダクトを完成させるかの方針を定めなければなりません。データはすぐに使える状態になっているだろうか、AIエージェントに手を入れる必要はあるだろうか...速やかな判断が求められます。一番力使うところですし、時には難題が降り掛かってくることもあるのですが、ここは我々としてプロの腕の見せ所。これまで苦労しながらも何とかクリアしてきました。

チームの一員としてAIが溶け込む

──まだ先々は長いとは思いますが、今の中期計画の節目となる2027年にはどのような姿でいたいですか。

瀧本:気が付いたらAIと一緒に仕事しているというシーンが社内のそこかしこで展開されていると嬉しいですね。組織の一員としてAIが自然に溶け込んでいる様子を夢見ながら一歩一歩前進していきます。

岩長:テレビ、特に制作の現場では、やはり人が重要になります。同じ番組やコーナーであっても関わる人が変わることで、演出に変化を及ぼし、結果として視聴層や視聴率にも大きく影響していきます。テクノロジーがすべてを解決するのではなく、人の想いや熱量が大事になることを肝に銘じて、現場の人の役に立つ仕組みを築けたらと思います。

企業概要

企業名
日本テレビホールディングス株式会社
事業内容
株式等の所有を通じて企業グループの統括・運営等を行う認定放送持株会社。傘下に、一般放送事業やメディア事業等を手掛ける日本テレビ放送網株式会社などがある。
企業名
日本テレビ放送網株式会社
事業内容
放送法による基幹放送事業及び一般放送事業、メディア事業、その他放送に関連する事業などがある。

人物

瀧本 恭佑 氏

瀧本 恭佑 氏

日本テレビ放送網 社長室 R&Dラボ 主任
岩長 真理 氏

岩長 真理 氏

日本テレビホールディングス 経営戦略局 経営戦略部 主任
最上 隆史

最上 隆史

ULSコンサルティング
テクノロジー本部 アドバンスドテクノロジー部 ディレクター
瀧口 翔生

瀧口 翔生

ULSコンサルティング
テクノロジー本部 アドバンスドテクノロジー部 シニアコンサルタント